Descent — 0 m
深海
水面から、チャレンジャー海淵まで
0 — 200 m
有光層
光の届く、ごく浅いところ
海の平均水深はおよそ3800メートルある。そのうち光が届くのは、上から200メートルまで。全体の五パーセントにも満たない。
この層だけが光合成のできる場所で、海のほとんどの生き物がここに集まっている。海を思い浮かべるとき、私たちが想像しているのは、たいていこの薄い膜のことでしかない。
200 — 1,000 m
薄明帯
光が、色を失っていく
水は赤い光から先に吸収する。赤が消え、橙が消え、黄が消えて、最後に青だけが残る。だからこの層では、赤い体をした生き物が黒く見える。目立たないために、あえて赤くなった生き物がいる。
光合成にはもう足りないが、影の輪郭くらいは分かる。上から見下ろせば獲物が影になる。だから多くの魚が、腹を光らせて自分の影を消している。隠れるために光るという発想が、ここから始まる。
1,000 — 4,000 m
漸深帯
太陽の光が、完全に尽きる
1000メートルを超えると、太陽由来の光はゼロになる。ここから下は、地球の表面積の大半を占めていながら、一度も朝が来たことのない場所になる。
それでも暗闇ではない。深海の生き物のおよそ四分の三が、自分で光をつくる。求愛のため、獲物を釣るため、逃げるときに目つぶしを撒くため。光源が空から生き物の体へ移る。
4,000 — 6,000 m
深海帯
水温は二度、水圧は四百気圧
深海平原と呼ばれる、広大でほとんど平らな泥の底。水温は氷点直上で安定し、水圧は指の爪ほどの面積に四百キロがのしかかる。
食べものは上から降ってくるものしかない。生き物の死骸やふんが、雪のようにゆっくり落ちてくる。マリンスノーと呼ばれるそれが、この層のほぼ唯一の栄養源になっている。上の世界の残りかすで、下の世界が成り立っている。
6,000 — 10,000 m
超深海帯
海溝の底へ
6000メートルより下は、もう海底ですらない。プレートが沈み込んでできた細長い溝の中だけに存在する、地球でもっとも狭くもっとも深い環境。名前の由来は冥界の神ハデス。
全海洋の面積のうち、ここが占めるのは0.25パーセントに満たない。それでも生き物はいる。8000メートルを超える場所で泳ぐ魚が、確かに撮影されている。
10,000 — 10,911 m
チャレンジャー海淵
エベレストを逆さに沈めても、 頂上はまだ水面に二千メートル届かない。
ここまで降りてきた光は、あなたが連れてきたものだけです。
池森 裕毅
株式会社tsam 代表取締役 / 信州大学 特任教授